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横浜地方裁判所 昭和26年(ワ)721号 判決

原告 上郎泰

被告 石川島軽金属機器株式会社 外一名

一、主  文

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

第一、当事者の求める裁判

(一)  原告訴訟代理人は

(1)  被告石川島軽金属機器株式会社は原告に対し別紙<省略>第一目録記載の土地の上に存する別紙第二目録記載の建物及び一切の工作物を収去して右土地を明渡し、且つ昭和二十六年一月一日から右土地の明渡済に至るまで一ケ月金一万五百十三円の割合による金員を支払え、

(2)  被告石川島産業株式会社は原告に対し金七万一千四百七十一円及びこれに対する昭和二十六年一月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、

(3)  訴訟費用は被告等の負担とする、

との判決並に仮執行の宣言を求めると述べた。

(二)  被告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求めると述べた。

第二、請求原因及びこれに対する答弁

(一)  原告訴訟代理人は請求原因として次の通り主張した。

(1)  被告石川島軽金属機器株式会社(以下軽金属会社と称する)は昭和二十五年十二月二十日、同石川島産業株式会社(以下産業会社と称する)は昭和二十四年七月十四日にそれぞれ解散し目下清算中である。

(2)  別紙第一目録記載の土地はもと原告の母上郎やすの所有であつたが同人は昭和十六年一月死亡し、吉田はな、太田晉、上郎幸、佐竹清及び原告の五名が遺産相続によつて共有するところとなり右五名は昭和十八年七月一日産業会社に対し前記土地を期間二十年、木造建物所有の目的で賃貸した、その後昭和二十五年六月八日原告は前記原告を除く共有者四名から右土地に対する各自の持分を譲受け、右土地の単独所有者となり、同時に右四名の賃貸人としての地位を承継した。

(3)  右賃貸借契約に於ける賃料は昭和二十四年六月一日から同二十五年七月三十一日迄一ケ月金三千三百四十五円で毎月末日限り其月分の賃料を支払う約定であつたところ、同年八月一日からは前記産業会社の承諾を得て一ケ月金一万五百十三円に増額となつた。

(4)  然るに右産業会社は昭和二十四年十二月分の賃料の内金一千九十八円と同二十五年一月一日以降の賃料を支払わない。

(5)  よつて原告は産業会社に対し昭和二十五年十一月四日附書面で右延滞賃料を右書面が産業会社に到達後七日以内に支払うよう催告し、右支払がないときは前記賃貸借契約を解除する旨通知し、右書面は翌五日同会社に到達したが右期間内にその支払をしない。よつて原告は同年十二月十四日附書面で右賃貸契約を解除する旨通知した。

(6)  被告軽金属会社は本件土地の上にある産業会社所有の別紙第二目録記載の建物並に工作物一切を昭和二十四年四月二十六日右産業会社から譲受け所有し、法律上何等の権限なく本件土地を占有し、原告に対し相当賃料と同額の損害を与へている、しかしてその損害額は昭和二十五年八月一日以降一ケ月につき金一万五百十三円である。

(7)  よつて原告は軽金属会社に対し、別紙第二目録記載の建物及び一切の工作物を収去して、別紙第一目録記載の土地の明渡と、昭和二十六年一月一日から右土地明渡済に至るまで一ケ月金一万五百十三円の割合の損害金の支払を求める。又産業会社に対しては昭和二十四年十二月分の未払賃料及び同二十五年一月一日から同年十二月十四日までの延滞賃料合計金七万一千四百七十一円並に、これに対する賃料支払期限の後である昭和二十六年一月一日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  被告等訴訟代理人は次の通り答弁した。

原告主張の(1) (2) 及び(4) の事実、(3) の事実中賃料が昭和二十五年七月三十一日迄一ケ月金三千三百四十五円であつたこと、(但し、昭和二十四年七月十四日以降、賃借人は軽金属会社)、(5) の事実中産業会社に対し原告主張の如き昭和二十五年十一月四日附及び同年十二月十四日附各書面が到達したこと、(6) の事実中軽金属会社が原告主張の如き建物を産業会社より譲受け所有し、原告主張の土地を占有していることは何れも認めるが、その余の事実は全部否認する。

第三、被告等の抗弁及びこれに対する原告の答弁

(一)  被告等訴訟代理人は次の通り主張した。

(1)  産業会社は昭和二十四年七月十四日企業再建整備法に基いて本件建物及び本件土地の借地権その他工場設備一切を現物出資して第二会社としての軽金属会社を設立したものである。而して右軽金属会社が発足するや直に原告の土地管理人高山常次郎に対し口頭で、次いで原告本人及び右高山に対し書面を以て、それぞれ新会社設立の挨拶をなしたところ原告は右産業会社と軽金属会社との関係を諒承し、その後は右管理人が軽金属会社からの賃料支払いを異議なく受領していたのであるから、原告は右会社設立の日である昭和二十四年七月十四日から本件土地に対する右賃借権の譲渡について黙示の承諾を与えたものである。

(2)  仮りに右賃借権の譲渡について原告の承諾がなかつたものとしても、産業会社は会社経理応急措置法及び企業再建整備法に基き同法所定の手続を経て前記の如き現物出資をなして第二会社としての軽金属会社を昭和二十四年七月十四日設立したものであるから、前記各法の規定に因り地主たる原告の承諾を要しないで当然に右賃借権譲渡を原告に対抗できる。従て原告の被告軽金属会社に対する不法占有を原因とする本訴請求は理由がない。又軽金属会社設立の日以後の産業会社に対する賃料請求も失当である。

(3)  尚右抗弁が容れられないとしても、(イ)軽金属会社は事業不振となり、地代も払えなくなつたので、昭和二十五年十二月二十日解散し、その後本件建物を処分しようとしたところ右建物の買受希望者があつたので、本件土地管理人高山常次郎に対し延滞賃料を完済し、更に金十五万円を提供するから右買受希望者に対する借地権移転を認めて貰いたい旨申出たけれども、右高山は右申出を承認しなかつた。尚右申出は昭和二十六年六月末頃から同年十一月頃に亘る期間内に数回なした。(ロ)又本訴提起後も被告両会社の親会社に当る石川島重工業株式会社から原告宛右石川島重工業株式会社が滞納地代全部を支払い且つ今後の地代についても同会社が責任を負うから本件土地に関する賃借権の継続を認めて貰いたい旨申出たが原告から何等の返答がなかつた。(ハ)即ち原告は僅かの地代の滞納を口実にして賃貸借契約を解除し本件土地を高価に売却しようとして右土地上の約千坪に近い工場設備を収去し、右土地の明渡を求めるものであるから、これは所有権の濫用であつて許されない。

(二)  原告訴訟代理人は右抗弁に対し次の通り答弁した。

被告等主張の抗弁中、(1) の事実の内被告等主張のような軽金属会社設立の事情、経過、産業会社より軽金属会社への財産出資の関係はいずれも知らない、その他の事実は否認する。(2) の事実は知らない。(3) の事実の内(ロ)については認めるが、その余の事実は全部否認する。

第四、証拠<省略>

三、理  由

一、原告が請求原因として主張する(1) (2) の事実は当事者間に争がない。

二、そこで被告等主張の抗弁(1) について判断する。

産業会社が企業再建整備法の規定にもとずいて第二会社たる軽金属会社を設立し、これに原告主張の財産を現物出資し、昭和二十四年七月十四日解散したことは、抗弁(2) の判断で示すように認められ、且つ証人中川亀三郎の証言によると、右新会社設立後間もなく、原告の本件土地の管理人高山常次郎に対し、第二会社設立のことを告げ引続き新会社に対し本件土地を賃貸するよう申入れたことが認められるけれども、原告(又は土地管理人)が、被告等主張のように本件土地の賃借権譲渡の事実を知りながら、軽金属会社より賃料を受取つていた事実又は、原告が暗黙に右譲渡を承認したことはこれを認めるに足る証拠がないから、右被告の抗弁は採用しない。

三、次に被告等の抗弁(2) について判断する。

証人中川亀三郎、同菅野正の各証言と本件弁論の全趣旨を綜合すると、被告産業会社は会社経理応急措置法及び企業再建整備法に基き同法所定の手続を経て、本件第二物件目録記載の建物及び工場設備の一切を現物出資し、適法に第二会社である軽金属会社を、昭和二十四年七月十四日設立し、その設立と同時に解散したことが認められ、且つ本件土地に対する賃借権も、その地上建物の譲渡と同時に軽金属会社に譲渡されたことを認めることができる。

しかして右賃借権の譲渡を、当然に(賃貸人たる原告の承諾なしに)原告に対抗できるかどうか、検討するに、

会社経理応急措置法に定める特別経理会社が、企業再建整備法の定めるところによつて、その資産の全部を出資して第二会社を設立したときは、新会社は旧会社の負債、その他の拘束を脱し、新鮮な活動をなすことが期待され、企業再建整備法はその定められた整備計画を推進するため第二十八条以下-一連の強い規定を置き、もつて同法第一条の目的達成を企図している。そこで右諸規定を考慮に入れ、本件を見るに、産業会社は前記認定のようにその所有する別紙第二物件目録記載の工場建物と、施設の一切をその敷地の借地権と共に軽金属会社に現物出資したのであるから、その賃借権の譲渡は整備計画の実質的内容をなしているものと見るべきであつて、もしこの場合賃貸人の承諾がなければ右譲渡を地主に対抗できないものとすれば、その地主の意思次第で新会社設立の目的は根底から覆される結果となり、これは前記企業再建整備法の諸規定に照し、にわかに首肯できないのみならず、本件弁論の全趣旨によれば軽金属会社は、産業会社より経営の実体を、その侭引継いだことが窺われるから、前記賃借権の譲渡は当然に、原告に対抗できるものと解すべきを相当とする。

四、はたして、そうだとすると、昭和二十四年七月十四日以降被告軽金属会社が、被告産業会社に代り本件土地の賃借人となつたのであるから、被告軽金属会社に対し、本件土地の不法占有を原因とする請求並に被告産業会社に対する右日時以後の賃料の請求は何れも他の判断をするまでもなく失当である。

五、よつて原告の請求を棄却し、民事訴訟法第九十八条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 地京武人)

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